私がまだ音楽を聴いていなかった頃

1970年代から1980年代にかけては、いわゆるアイドル全盛期だった。

そんな時代の私が最初に心を奪われたのは、桜田淳子だった。

秋田美人らしい整った顔立ち。

そして独特の鼻にかかった柔らかい歌声。

彼女に魅了された人は少なくなかったと思う。

もっとも、当時の私はまだ五歳前後の幼児だった。

今思えば随分ませた子どもだったのかもしれない。

しかし正直に告白すると、私が桜田淳子に惹かれていた理由は歌ではなかった。

ルックスである。

少々自虐的な言い方になるが、幼少期の私は青っぱなを垂らし、人の話も十分理解できないような子どもだった。

当然ながら、桜田淳子の代表曲『わたしの青い鳥』の歌詞など理解できていない。

いや、桜田淳子でなくてもよかったのかもしれない。

当時の私にとって重要だったのは、可愛らしい女性がテレビ画面の中にいることだった。

歌そのものには、ほとんど注意を払っていなかったのである。

今振り返ると、歌謡曲だけでなく童謡ですら、私にとっては同じような存在だったように思う。

歌詞もメロディーも分からない。

ただ何となく流れている。

そんな状態だった。

当時の我が家のテレビは、十四型の白黒テレビだった。

すでにカラー放送の時代に入っていたにもかかわらず、我が家ではなお白黒テレビが現役だった。

アンテナ内蔵型で、映像も音も決して良いとは言えない。

今の基準から見れば、とても長時間視聴する気にはなれない代物である。

そんな環境で育った私は、音と音楽の違いすら十分には理解できていなかった。

音は聞こえていた。

しかし音楽は聴いていなかった。

私の中で音楽に対する感性は、まだ眠ったままだったのである。

その眠りが破られるのは、小学校四年生の時だった。

友人宅で、ある演奏を聴くまでは。