メンテナンス

JRの予約サイトやインターネットバンキングなどで、

「日曜日〇時から〇時まで、メンテナンスのためご利用いただけません」

といった表示を見たことはあるだろう。

メンテナンス作業は、利用者の少ない時間帯に行ふほうが都合がよい。 そのため、深夜や土日祝日に実施されることが多い。

深夜であれば、できればぐっすり眠ってゐたい。 土日祝日であれば、友人と遊びに出かけたり、家族と団らんの時間を過ごしたりしたい。

されど、さうした時間を押して、作業に向かふ人々がゐる。

最近では、自宅からテレワークで作業する場合もないではない。 しかし、多くの場合は、会社の居室やデータセンターなど、決められた場所で行はれるのが一般的である。

眠らぬ街、東京といへども、深夜に作業場所へ向かふとなれば、平日の日中に比べて、移動に大幅な時間がかかることもある。 食事を取らうとしても、開いてゐる店は限られる。

しかも、メンテナンスは、ただ機械の前へ行って作業をすればよいといふものではない。

利用者への影響が大きいだけに、通常の業務以上に、事前準備に時間をかける必要がある。 何を、どの順番で行ふのか。 万一、予定どほりに進まなかった場合は、どの時点で作業を中止し、元の状態へ戻すのか。 関係する人々への連絡は済んでゐるか。

さうしたことを一つひとつ確認したうへで、ようやく当日の作業を迎へるのである。

また、データセンターは、駅から遠く離れた場所にあることも多い。 住宅地の外れなどに建てられてゐることもあり、人気のない深夜、その道を抜けてセンターへ入館するとなれば、緊張感による精神的な負担も、当然ながら小さくない。

さう、日頃から何気なく目にする「メンテナンス」とは、現場では、このやうなことが行はれてゐるのである。

もっとも、こうした作業に従事する人々の労は、少しずつではあるが、軽くなってきてゐる。

かつては、今よりもサービスの提供範囲がはるかに狭かったにもかかはらず、操作する機械の台数は多く、操作そのものも非常に煩雑であった。 当然、作業は長時間に及んだ。

しかし、技術の進歩によって、作業は少しずつ簡素化されてきた。 とりわけ近年では、作業の自動化が進んでゐる。

ここでいふ自動化とは、人が機械の前で一つひとつ手を動かさずとも、あらかじめ定めた手順に従って、システムの変更や更新を行へるやうにすることである。

技術者の世界では、これを「デプロイ」と呼ぶ。

かつては、人が順番を確認しながら行ってゐた作業を、機械が決められた手順に従って進めてくれる。 そのため、以前に比べれば、作業にかかる時間も、そこで働く人の負担も、軽くなっていくことが期待される。

とはいへ、メンテナンスそのものが、すべてなくなるわけではないだろう。 自動化された仕組みであっても、それが正しく動くかどうかを確認し、万一のときには人が判断しなければならぬ場面が残るからである。

このやうなことを書くと、メンテナンス作業に携はる人々が、まるで苦行の極みにゐるかのやうに思はれるかもしれぬ。

しかし、筆者を含め、当の作業者たちは、必ずしもそのやうな悲壮感を抱いてゐるわけではない。

むしろ、普段とは異なる時間帯に、限られた時間の中で、決められた作業を確実に終へる。 その緊張感を、どこか楽しんでゐる節さへある。

人とは、かくも不思議なものなり。