情報システム部門は、パソコン係にあらず

これまでの一連の投稿は、あくまで筆者の経験に基づくものであり、業種や業態全体に当てはまるとは限らぬ。そこは、あらかじめご了承願ひたい。

先の投稿では、従業員がパソコンや事務機器を使へるやうにするため、専門の担当者が必要になつた、といふ話に触れた。

しかし、経営者を悩ませてゐたのは、従業員にパソコンを使ひこなさせることだけではない。

むしろ、もっと悩ましい問題が、次々と起きてゐたのである。

企業向けのパソコン導入需要が高まると、事務機器販売会社の営業担当者が、会社を訪ねてくることも増えた。

もちろん、パソコンに詳しくない会社の困りごとを解決しようとする、親切な営業担当者もゐる。

されど、相手が詳しくないことをよいことに、必要以上の機器やサービスを勧める業者も、少なからず存在した。

経営者からすれば、これは容易ならぬことである。

パソコンや事務機器を導入したい。けれども、自分には、その機器が本当に必要なのか、価格は妥当なのか、判断する知識が十分にない。

そうなると、経営者は、自分の味方になつてくれる人を近くに置き、安心して事務機器やシステムを導入したいと考へる。

二十一世紀に入り、業務をコンピュータ化しなければならないことは、経営者の多くが痛いほど理解してゐた。

とはいへ、無駄な投資は避けたい。

自社にとつて必要なものを、必要な規模で、できるだけ適切な予算で導入したい。

現金で購入するなら、資産として計上する必要があるかもしれぬ。税金や減価償却は、どうなるのだらう。

リースにするなら、与信審査もある。経理担当者との協議も必要になる。

そのうへで、システム担当者として、導入する機器やサービスについて意見を求められることもある。

こうしたことも、情報システム担当者の仕事になつていつた。

検討すべき費用は、パソコン本体だけではない。

事務機器のリース費用、インターネット回線、プロバイダー、各種ソフトウェアの利用料やライセンス費用など、システムに関はる支出は数多くある。

その中には、契約を見直したり、利用状況を調べたりすることで、減らせるものもあるかもしれぬ。

システム予算の管理は、日々の経費を見るだけでは終はらない。次年度の予算取りや、設備更新の計画にも関はつてくる。

自社でホームページを持つてゐるなら、ドメインの管理も必要になる。

ネットショップを運営してゐるなら、社内のショップ担当者と、ページ更新や販売促進について相談することもある。

百貨店などと取引があれば、取引先ごとのシステム上の条件にも対応しなければならぬ。

たとへば、百貨店向けの受発注データを自社の基幹システムへ取り込むこと。

商品に付けるバーコードを、取引先ごとの規格に合わせること。

取引先によつて異なるデータ形式や運用方法を確認し、社内の仕組みとの間をつなぐこと。

これらも、情報システム部門の仕事である。

さらに大きな期待として、人手に頼つてゐる作業を減らし、社内に蔓延する属人化をなくし、業務を自動化することで、経費削減を図るといふ役割もあつた。

「あの人でなければ分からない」

「あの人が休むと、仕事が止まる」

そのやうな状態を少しずつ改め、誰が担当しても一定の品質で仕事が進む仕組みをつくる。

これもまた、情報システム部門に期待された仕事である。

また、どこの会社でも、年度ごとに経理関係の確認や社内監査が行はれる。

税理士法人などが訪問し、経費の内容を確認することもある。当然ながら、システムに関はる費用も例外ではない。

経理部長が回答に困つた時には、システム担当者が代はつて説明することもある。

何を導入したのか。

なぜ、その費用が必要なのか。

契約期間はどれほどか。

ほかのサービスと比較したのか。

システム担当者は、機械の操作だけでなく、こうした質問にも答へなければならなかつた。

ITエンジニアとして、技術のことだけを経験してきた者から見ると、こうした仕事の範囲は、少し意外に思へるかもしれぬ。

事務方から見ても、システム担当者が何のためにゐるのか、はつきり分からないことがあるだらう。

しかし、経営者は、そこを理解してゐたやうに思ふ。

情報システム部門は、パソコンの故障を直すだけの部署ではない。

何を導入するか。

どのやうに使ふか。

いくら費用をかけるか。

どこまで自動化するか。

業務を誰に依存させるか。

その判断は、会社の経費や業務の流れ、さらには将来の経営にも関はつてくる。

そう考へると、情報システム部門の仕事は、会社の枢機に関はる仕事であることに気づく。

パソコンの面倒を見ることから始まつた仕事が、いつしか、会社の仕組みそのものを考へる仕事になつてゐたのである。