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石の上にも三年は未だ健在か?――概論編
2026年9月24日
石の上にも三年は未だ健在か?――概論編
日本の社会では、私が会社に入つた頃から「石の上にも三年」といふ言葉が、よく聞かれた。
どんなに辛くても、何が何でも最低三年は同じ会社で働く。それが美徳であり、三年も続かない者は、社会人として何か問題がある――そんな空気が、かつては確かにあつた。
さて、令和の今はどうであらうか。
今回は、この「石の上にも三年」について、少し考へてみたい。
かく言ふ私自身は、最初に就職した会社に五年ほど在籍した。
その間、エンジニアとして技術を身につけただけではない。新人のOJTにも携はつた。入社三年目では、まだ新人を教へる立場にはならなかつただらうから、五年間在籍したことには、それなりの意味があつたと思つてゐる。
一方、私が交換機エンジニアとして仕事をしてゐた平成の始め頃には、「一人前になるには八年かかる」といふやうなことも言はれてゐた。
今になつて振り返ると、これも決して根拠のない話ではなかつたと思ふ。
では、交換機エンジニアとして一人前になるには、何が必要だったのか。
詳しい話は次回に譲るとして、大まかに挙げれば、次のやうなことになる。
一、交換機を動かすには、コンピュータの基本的な考へ方を理解してゐなければならない。
二、交換機を構成する仕組みを理解してゐなければ、開発や運用の場面で適切に対処することが難しい。
三、一連の仕事――計画、実行、完成、納品、承認――を一巡するだけでも、二、三年はかかる。これを一度経験しただけで、すべてを理解するのは難しい。二度、三度と経験して、ようやく全体が見えてくる。
こうして並べてしまうと、何やら簡単な話に聞こえる。
しかし、実際にはそうでもなかつた。
当時は、今のやうにインターネットで検索すれば、すぐに技術情報が見つかる時代ではない。専門書を読み、分からないところは職場の先輩に尋ね、実際の仕事を通じて知識を積み上げていく。
いはば、職場そのものが巨大な教材だったのである。
これは、なかなか骨の折れる作業だった。
もちろん、今でも簡単に答えが見つかるとは限らない。されど、インターネットで検索し、さらにAIに尋ねることもできる。昔なら何日も悩んだことが、今なら数時間、あるいは数十分で糸口をつかめることもあるだらう。
さう考へると、平成の始め頃に技術を身につけるために必要だった時間は、現在ではかなり短縮されてゐるのかもしれない。
少なくとも、技術スキルを身につけることだけを考へるなら、人によつては三年間も同じ職場にゐる必要はないのかもしれない。
一定の成果を上げ、そこで学べることを学び尽くしたのであれば、在籍し続けることが、かへつて自分の足枷になる場合もある。
されど、仕事で身につくものは、技術だけではない。
社内外の人との関係。 仕事を通じて得られる信用。 会社の事業そのものを理解すること。 あるいは、一つの組織を長く見続けることでしか分からないこと。
これらを身につけようと思へば、三年では足りないこともあるだらう。場合によつては十年ゐても、まだ十分とは言へない。
結局のところ、「三年ゐるべきか」「十年ゐるべきか」といふ数字だけで決める話ではないのだと思ふ。
大切なのは、
「いま自分は、この場所にゐることで何を身につけてゐるのか」
と、自分自身に問いかけることではないだらうか。
石の上にも三年。
昔からの言葉ではあるが、三年といふ数字そのものに縛られる必要はない。
三年で得られるものもあれば、十年かけて初めて見えるものもある。
そして、その違ひを決めるのは、年月ではなく、その人がその場所で何を経験し、何を得ようとしてゐるか――なのかもしれない。
さて、ここまで読んで、「では、なぜ交換機エンジニアには一人前になるまで八年も必要だったのか」と思はれた方もゐるかもしれない。
次回は、その理由をもう少し具体的に書いてみたい。