ネットがつながらないのは、なぜ?――通信障害の裏側

先日、某通信事業者で、休日の昼間に長時間、インターネットにつながりにくくなる事象が起きた。

予期せぬ事態によつて、インターネットが使へなくなることは、確かに問題である。

しかし、それ以上に印象を悪くしたのが、同事業者が「つながりにくい状況が発生してゐる」とX上で発表したのが、事象の発生から数時間後だったことである。

電車の遅延や運休であれば、首都圏、とりわけJR東日本などでは、遅延理由を添へて、比較的早い段階で利用者に知らせる仕組みが整つてゐる。

ところが、通信事業者の障害情報となると、同事業者に限らず、利用者から見れば「発表が遅い」と感じることが少なくない。

なぜなのだらうか。

インターネットは、いまや私たちの生活を支へる重要な社会インフラである。

仕事をする。

買ひ物をする。

銀行を利用する。

家族や友人と連絡を取る。

ニュースを見る。

行政の手続きをする。

こうしたことの多くが、インターネットを前提としてゐる。

そのため、通信障害は、単に「ネットが見られない」といふだけの話ではない。

場合によつては、生活そのものに影響し、さらには人命にも関わり得る。

電車であれば、遅延や運休が発生したとき、利用者は「電車が止まつてゐる」と比較的容易に認識できる。

そして、別の路線へ回る、バスを使ふ、あるいは振替輸送を利用するといふ選択肢もある。

ところが、通信の場合は、そう簡単ではない。

「ネットがつながらない」といふ一つの現象の裏側に、いくつもの原因が考へられるからである。

今回は、金融、自治体、通信事業者などで、数々の障害対応を経験してきた私が、その仕事を通じて知つたことを、少し書いてみたい。

まず、パソコンなどからインターネットへアクセスする場合を考へてみよう。

家庭からインターネットへ接続するには、通信回線を提供する事業者や、インターネット接続サービスを提供する事業者など、いくつかの仕組みが関係してゐる。

一般に「プロバイダー」と呼ばれてゐるのは、インターネットへの接続サービスを提供する事業者である。

ただし、現在では、回線とインターネット接続サービスを同じ事業者が提供してゐる場合も多い。

そのため、利用者から見れば一つのサービスに見えても、その裏側では複数の設備やネットワークが動いてゐることがある。

たとへば、

パソコン ↓ 家庭内のルーターなど ↓ 通信回線・終端装置 ↓ 通信事業者の設備 ↓ インターネット接続サービス ↓ インターネット上の目的のサイト

という具合である。

スマートフォンの場合も、少し違ふ。

スマートフォンは、近くの基地局と無線で通信し、その先にある携帯電話網を通つて、インターネットへ接続する。

つまり、「ネットがつながらない」といふ一つの現象でも、その原因がどこにあるのかは、すぐには分からない。

自宅のルーターに問題があるのか。

通信回線に問題があるのか。

通信事業者の設備に問題があるのか。

インターネット接続サービス側に問題があるのか。

あるいは、自分がアクセスしようとしてゐるWebサイトや、そのサービス側に問題があるのか。

さらには、自分の端末そのものに問題があるのか。

この切り分けを、通信事業者も、プロバイダーも、場合によつては利用者自身もしなければならない。

たとへば、自宅の中では何の問題もないのに、通信事業者側の設備で障害が発生してゐることもある。

逆に、通信事業者の設備には問題がなくても、インターネット接続サービス側で障害が起きてゐることもある。

さらに、その先にあるWebサービス側の障害かもしれない。

電車にたとへれば、「駅」「線路」「車両」「信号」「運行システム」「目的地」など、いくつもの場所を順番に調べていくやうなものだ。

しかも通信の場合、それらが目に見えない。

ここが、通信障害の難しいところである。

だからといつて、障害の発表が遅くても仕方がない、ということにはならない。

通信事業者やプロバイダーも、障害をできるだけ早く検知するための仕組みを、かなり以前から整へてきた。

それでも、障害が発生すると、

「いったい、どこで何が起きてゐるのか」

を確認するだけで時間がかかることがある。

さらに、原因が分かつたとしても、その影響範囲を確認し、利用者へ何をどのやうに知らせるのかを判断しなければならない。

会社にとつては信用にも関わることであるから、発表の内容を慎重に確認することもあるだらう。

しかし現在では、障害が発生すれば、XなどのSNSで利用者から一斉に声が上がり、やがてネットニュースなどでも取り上げられる。

事業者側が情報を出す前に、利用者のほうが「何かおかしい」と気づいてしまふことも珍しくない。

このあたりが、通信障害の難しいところである。

電車ならば、ホームに行けば電車が来ない。

通信の場合は、パソコンやスマートフォンを何度見ても、画面に「なぜつながらないのか」が表示されるとは限らない。

見えないところで、見えない機械が、見えないネットワークを通じて動いてゐる。

そして、そのどこか一つで問題が起きれば、私たちの目の前では、ただ「ネットがつながらない」といふ一つの現象として現れるのである。

全くの余談だが、私がこのやうな「ネットがつながらない」といふ事象に遭遇したとき、どこに問題があるのかを比較的早く切り分けられるのは、職業柄、少し得をしてゐると思つてゐる。

通信障害とは、単なる「ネットの故障」ではない。

その裏側には、通信事業者、プロバイダー、設備、ネットワーク、そして、それを支へる多くの人たちがゐる。

そして、地震や豪雪など、自然災害が起きたときには、この「見えない通信網」が、さらに大きな問題を抱えることがある。

その話は、また別の機会に書いてみたい。