ネットは、雪にも弱かった――札幌支社で起きた通信障害

もう十数年も前のことである。

東京本部でシステム担当として働いてゐた頃の話だ。

ある日、札幌支社の事務員の方から、

「基幹システムが使へないやうです。月次棚卸ができず困つてゐます。確認してもらへませんか」

と連絡が入つた。

当時の基幹システムは、東京本部にサーバーが設置されてゐた。

各支社や本部倉庫は、インターネットVPNを利用して東京本部と接続し、売上、在庫、出荷などの処理を行つてゐた。

つまり、各拠点と東京本部との通信が途切れてしまふと、こうした業務が止まつてしまふ。

札幌支社のパソコンそのものは、問題なく動いてゐるやうだった。

しかし、東京本部との同期処理を行はうと、エラーになる。

どうやら、パソコンの故障ではなささうだ。

となれば、疑はしいのは、札幌支社のインターネットVPN回線である。

早速、ネットで回線事業者の障害情報を確認してみた。

ところが、それらしい障害情報は出てゐない。

「回線は正常なのだらうか」

そう思ひながら、ふと札幌市の天気予報を見てみた。

すると、その日は大雪だった。

東京も非常に寒い日だったが、札幌では、かなりの雪が降つてゐるらしい。

私の記憶では、「北の大地」と呼ばれる北海道とはいへ、札幌市内は、そこまで雪が多い場所ではないと思つてゐた。

ところが、その日は四十センチを超える積雪だった。

そこで、北海道の回線事業者に、私から直接電話をしてみた。

すると、

「インターネットにつながらない、といふ申告を複数の利用者から受けてゐます」

とのことだった。

どうやら、札幌市内の一部で、何らかの障害が発生してゐるらしい。

すでに作業員が、ほかの利用者の対応に向かつてゐるといふ。

そこで私は、

「もし作業員の方が札幌支社の近くで作業をされる予定があるのであれば、ついでにこちらも確認してもらへないだらうか」

とお願いした。

しばらくして、作業員の方が札幌支社に到着した。

そして調べてもらつたところ、原因が分かつた。

ビルへ通信回線を引き込んでゐる終端部分が、雪の圧力によつて影響を受け、通信できない状態になつてゐたのである。

除雪をしてもらひ、通信が復旧した。

札幌支社から基幹システムにも、再びアクセスできるやうになつた。

こうして、その日のうちに月次棚卸を行ふことができた。

今になつて思ふ。

札幌支社が札幌市内にあつて、本当によかつた。

もし、もっと郊外にあつたら、回線事業者の作業員が現地へ到着するまでに、さらに時間がかかつてゐたかもしれない。

障害対応をしてゐる間、東京本部では、営業事務の責任者が月末の締め作業を気にしてゐた。

そのイライラが、電話越しにも、何となく伝はつてくる。

こちらとしても、のんびり構へてゐるわけにはいかない。

ちょうど月末の締めの時期だった。

もし復旧が翌日、翌々日と延びてゐたら、単なる「ネットの障害」では済まなかつた。

売上や在庫の処理、出荷、そして月次棚卸。

一つの通信回線が止まつただけで、会社の業務全体が滞つてしまふ。

東京にゐる私にとつては、

「札幌支社のシステムがつながらない」

といふ一つの障害だった。

しかし、札幌にゐる人たちにとつては、その原因は「雪」だった。

そして、東京にゐる私からは、その雪を見ることも、通信設備がどんな状態になつてゐるのかを見ることもできない。

ここに、通信障害の難しさがある。

画面に表示されるのは、ただ「つながらない」といふ結果だけ。

その向かう側では、雪が降り、設備が圧迫され、人が現場へ向かつてゐる。

システム担当者が東京でいくら画面を見つめてゐても、雪をどかすことはできない。

結局、最後は現地の人の手が必要になるのである。

この出来事は、私にとつて、

「ネットワークは、コンピュータの中だけにあるものではない」

といふ、ごく当たり前のことを、改めて教へてくれた出来事だった。

通信網は、建物の中にも、道路の下にも、電柱にも、そして建物の外にも続いてゐる。

そして、その通信網は、地震にも、雪にも、風にも影響される。

東京にゐるシステム担当者からは見えないところで、通信は今日も現実の世界に支へられてゐるのである。