健康保険料は、なぜ組合によって違うのか――転職して見えた業界の事情

今回は少し目線を変えて、健康保険の話をしてみたい。

会社勤めをしてゐる人の多くは、国民健康保険ではなく、会社を通じて健康保険に加入してゐることと思ふ。

入社すると、必要な手続きは会社側で進められる。毎月の給与から保険料が差し引かれてゐても、その金額が高いのか安いのか、あまり意識したことがない人もゐるのではないだらうか。

私の場合、転職の回数が比較的多く、IT業界だけでなく、ほかの業界で働いた経験もある。そのため、給与明細に記された健康保険料にも、いつしか目が向くやうになった。

せっかくなので、今回は、私が過去の給与明細などから気づいた健康保険の違ひについて、少し考へてみたい。

業界が変はれば、健康保険も変はる

会社員が加入する健康保険には、企業などが設立する健康保険組合と、全国健康保険協会、いわゆる「協会けんぽ」がある。

健康保険組合には、特定の業界や企業グループを中心に組織されてゐるものもある。私自身、IT、繊維、物流といった異なる業界で働く中で、それぞれの健康保険に関わる機会があった。

そこで、当時の給与明細などを振り返ってみると、私が負担してゐた健康保険料には、違ひがあった。

私の記憶と手元に残る資料の範囲では、保険料の負担感は、繊維、物流、協会けんぽ、IT系の順だった。

ただし、これはあくまで私自身が加入してゐた時期の話である。

健康保険料は、加入してゐる組合や制度の保険料率だけでなく、給与をもとに決まる標準報酬月額などによっても変はる。介護保険料の負担が加はる年齢かどうかといった条件も関係する。

したがって、当時の給与明細を単純に並べて、IT系の健康保険はどこよりも安い、と結論づけることはできない。

また、同じ業界であっても、加入する健康保険組合が一つとは限らない。組合ごとに保険料率や制度の内容が異なる場合もある。

あくまでも、私が働いてきた範囲で気づいた違ひなのである。

保険料だけでは見えないもの

IT系の健康保険組合について、もうひとつ印象に残ってゐることがある。

保険料だけでなく、福利厚生のメニューも用意されてゐたことだ。

人気のあるレジャー施設や宿泊施設を割引料金で利用できたり、健康診断を受けた後に、飲茶セットを楽しめたりする。そんな特典があった。

健康保険といふと、病気になったときの医療費を支へる仕組みといふ印象が強い。されど、組合によっては、健康づくりや余暇の充実につながるサービスも提供してゐるのである。

もっとも、こうした特典があるからといって、組合の資金が潤沢だと断定できるわけではない。福利厚生の内容や費用の出どころは、それぞれの組合によって異なる。

それでも、同じ健康保険といふ制度の中に、こうした違ひがあることは興味深い。

組合に入れる会社、入れない会社

過去に在籍してゐた会社では、IT系の健康保険組合への加入がかなはず、別の健康保険を利用することになった経験もある。

当時、私は従業員の年齢構成などが関係してゐるのではないかと考へた。

ただし、加入の可否は、年齢構成だけで決まるとは限らない。組合の加入条件や事業所の状況など、さまざまな事情が関係する可能性がある。私自身は事務担当者ではなかったため、審査の詳細まで把握してゐたわけではない。

ここは、実際に経験したことと、その理由についての推測を分けておきたい。

とはいへ、健康保険組合も、加入する会社や従業員の状況と無縁ではない。どのやうな事業所が加入し、どのやうな給付やサービスを維持していくのか。そこには、組合ごとの事情があるのだらう。

IT技術者の高齢化で、これからどうなるのか

ここで、ひとつ気になることがある。

IT業界でも、長く働き続ける技術者が増えてゐる。以前は若い人が多いといふ印象のあった業界も、これからは年齢構成が変はっていく可能性がある。

そうなったとき、IT系の健康保険組合は、どのやうに変はっていくのだらうか。

年齢構成の変化は、医療費や保険財政を考へるうへで、無関係ではないだらう。しかし、保険料は医療費だけで決まるわけではなく、加入者の所得構成や高齢者医療制度への拠出など、さまざまな要素が関係する。

そのため、IT技術者の高齢化が進めば、必ず保険料が上がる、と単純に言ふことはできない。

一方、ほかの業界では、業界特化型の健康保険組合から、加入してゐた企業が離れていくといふ話を耳にしたこともある。

その背景には、保険料負担や企業側の事情など、さまざまな要因があるのかもしれない。

健康保険組合も、設立されたときの姿のまま、永遠に続いていくわけではないのである。

給与明細の向こう側

健康保険料は、毎月の給与から差し引かれる。普段は、手取り額を確認して終はり、といふ人も多いだらう。

私自身も、以前はそこまで深く考へてゐたわけではない。

されど、転職して異なる業界の給与明細を見比べてみると、同じ健康保険といふ仕組みの中にも、組合ごとの違ひがあることに気づいた。

保険料の違ひには、単純な高い安いだけでは語れない事情がある。健康保険組合のあり方も、加入する企業や従業員の構成、医療を取り巻く環境の変化によって、少しずつ変はっていくのだらう。

給与明細は、毎月の収入と支出を記した紙にすぎないやうに見える。

しかし、その数字の向こう側には、会社の制度があり、業界の事情があり、働く人々の暮らしがある。

たまには手取り額だけでなく、そこから差し引かれてゐるものにも目を向けてみる。そこから、これまで気づかなかった会社や業界の姿が見えてくることもあるのである。