ハードウェア保守のジレンマ――故障に備える現場の苦悩

先日、パソコンで音楽を聴いてゐたところ、ヘッドホンの音が聞き取りにくくなったり、突然、ディスプレイのスピーカーから音が出るやうになったりした。

最初はワイヤレスヘッドホンの故障を疑った。されど、原因を切り分けて調べた結果、故障してゐたのはヘッドホンではなく、USBポートに接続してゐた外付けのBluetoothアダプターであることが分かった。

残念ながら、そのやうな周辺機器は、私の住む街の電気屋さんには置いてゐない。やむなく電車に乗り、新宿の家電量販店まで出向いて、新品を購入することになった。

皆さんも、家電製品を使ってゐて、突然、動かなくなった経験はあるだらう。しかも、故障したのは本体ではなく、部品や周辺機器を交換すれば直ると分かり、街の電気屋さんへ駆け込んだ、といった経験である。

こうしたことは、会社や自治体で使われるシステム機器でも、しばしば起こる。

ただし、業務で使うシステムは、故障すれば多くの利用者に影響が及ぶ。街の電気屋さんに駆け込んだり、メーカーへ直接連絡して部品を届けてもらったりすれば済む、というわけにはいかない。

そもそも、業務用の機器は一般の店頭に並んでゐないことも多い。メーカーであっても、膨大な種類の部品をすべて在庫してゐるとは限らないのである。

では、会社や自治体では、故障に備えてどのやうな対策を立ててゐるのだらうか。

一般には、システム機器を購入する際、メーカーや販売代理店、保守事業者などとハードウェア保守契約を結び、故障時に対応してもらへるやうにしておく。

月払い、あるいは年払いで保守サービスの料金を支払い、いざ故障が起きたときには、契約内容に応じて修理や機器の交換などをしてもらふのである。

故障が起きなければ、保守料金を少し損に感じることもある。されど、いったん故障して復旧が長引けば、利用者に多大な迷惑をかけるだけでなく、会社や自治体への信用にも関わる。

そう考えれば、保守契約は、いざというときの復旧対応を確保するための備え、といへるだらう。障害対応を含む保険のやうなもの、と考えてもよいかもしれない。

ハードウェア保守には、さまざまなメニューがある。

たとえば、24時間365日の受付に加え、障害発生から一定時間以内の駆けつけを約束する手厚いサービスもあれば、利用者側で故障状況を示すログなどを採取し、それをもとに保守事業者が交換機器を発送する、比較的安価なサービスもある。

どのメニューを選ぶかは、予算だけでなく、システムの重要度や利用環境、求められる復旧時間によっても変わってくる。

保守事業者は、故障時にできるだけ速やかに機器や部品を交換できるやう、交換用の機器や部品を確保してゐる。機種や契約によっては、保守事業者が独自に交換用機器を用意してゐる場合もある。

ところが、家電製品と同じやうに、業務用のシステム機器にも製造終了や保守サポートの期限がある。

メーカーが定めたサポート期間を過ぎれば、正規の保守を受けられなくなることがある。また、保守期間内であっても、機器や部品の供給には限りがある。いつまでも同じ機種を使ひ続けられるわけではない。

メーカーが製品の販売やサポートを終了する時期を定め、交換部品の提供期間にも区切りを設けてゐる例は、各社のサポート方針にも見られる。

ゆゑに、会社や自治体は、保守が終了する前に、システム機器の買い替えやシステム全体の更新を検討しなければならない。

ところが、今どき、会社も自治体も、資金が潤沢にあるとは限らない。機器の更新には予算が必要であり、その予算を確保するだけでも一苦労である。

できることなら、新しい機器に買い替えずに済ませたい。そこで、保守事業者に無理を承知で保守期間の延長を願ひ出ることもある。

されど、保守事業者にも事情がある。メーカーが製造を終了した部品を確保することは、年を追ふごとに難しくなる。古い機器を使ひ続けたい利用者の事情は分かってゐても、交換部品が手に入らなければ、保守を続けること自体が困難になるのである。

私は、保守事業者として働いた経験もあれば、会社の情報システム担当者として保守を依頼する側にゐた経験もある。ゆゑに、双方の苦労は痛いほど分かる。

保守する側には、部品を確保し、限られた条件の中で復旧させる苦労がある。利用する側には、予算を確保しながら、システムを止めずに使ひ続けなければならない苦労がある。

いっそ、機器に強く依存するシステムなど、なくなってしまへばよいのに……。そんな愚痴をこぼしたこともあった。

これは言霊といふものだらうか。

不思議なことに、近年は、特定のハードウェアに強く依存する仕組みから、より汎用性の高い機器や、ソフトウェアを中心に構成する仕組みへと移っていく可能性を感じる場面も出てきた。

もちろん、ハードウェアが不要になるわけではない。どのやうなシステムであっても、実際に動かすための機器は必要である。されど、機器の違ひに縛られず、構成を柔軟に変へられるやうになれば、保守や更新のあり方も変はっていくかもしれない。

保守する側と、保守を受ける側。その両方を経験した私には、どちらか一方だけを責めることはできない。

このジレンマを、技術の進歩が少しずつ和らげてくれることを期待したい。

ハードウェア保守事業者の苦悩については、また別の機会に、じっくりお話ししたいと思ふ。