見えない通信を追い求めて――無線LANの便利さと、その裏側

平成の頃は、携帯電話を除けば、自宅であれ職場であれ、ネットワークへの接続は有線LANケーブルを使うのが一般的であった。

それが今では、ほとんど無線で接続するようになり、有線LANケーブルを使ってインターネットや社内システムに接続するケースは、かなり少なくなってきたと言えるだらう。

LANケーブルというものは、目に見えるものである。断線しているのか、劣化しているのか、あるいは接続が外れているのか。管理者だけでなく、利用者にとっても、原因を見極めやすかったように思う。

しかし、無線LANが主流となった今、その障害の切り分けは、以前よりも難しいものになっている。

同じ居室にいても、ある人は問題なくつながるのに、別の人はつながらない、あるいはつながりにくいということが起こる。

原因は、同じ居室内でも利用する場所によって電波の届き方が異なることだったり、無線LANの利用可能範囲や接続条件に関係していたりする。しかし、こうしたことは目で見て分かるものではない。

管理者であれば、原因の切り分けは不可能ではない。されど、調査するには専用の機器や知識、場合によっては特別な調査方法が必要になることもある。

また、利用者に向かって「この場所では電波がつながりにくいので、利用を控えてください」と言うのも、なかなか難しい。

そこまで言うのであれば、「どこでもきちんとつながるように環境を整備せよ」という話になってしまうからである。

無線LANは、LANケーブルを接続することなく、社外からでもネットワークにアクセスできる仕組みを実現している。

ただし、ここで注意しなければならないのは、無線だから社外から侵入できるという単純な話ではない。適切な認証や暗号化などの対策が施されていなければ、外部から不正に接続される危険性がある、ということである。

ゆゑに、無線LANの方式も、より安全なものへと更新され続けている。

それに対応する新しいネットワーク機器も次々と登場する。ITエンジニアも、新しい通信方式や機器について勉強し、古い機種を新しいものに置き換える作業に追われることになる。

便利になった一方で、それを支える側の仕事は、決して楽になったわけではない。

無線が止まった日

逆に、無線通信が主流になったがゆゑに、過去、職場でちょっとしたトラブルを経験したことがある。

あるとき、無線LANの認証システムが故障してしまい、社内システムが一切利用できなくなったのである。

幸い、その職場では、こうした事態も想定して、デスクの下に有線LANケーブルを配線していた。

無線が使えなくなった利用者は、そのケーブルに接続し直すことで、業務を継続することができた。

普段は無線で便利に使っているものの、いざそれが使えなくなったとき、かつての有線LANが思いがけず役に立ったのである。

これは、無線LANに限った話ではない。

普段、便利に利用している設備も、何らかの理由で故障したり、使いづらい状況になったりすることはある。

そして、そのような事態に直面したとき、初めて、これまで当たり前のように使えていた機能のありがたさを実感する。

便利な仕組みほど、それが使えなくなったときの影響は大きい。

無線通信も同じである。

目に見えない電波を追い求め、つながらない原因を探すこともITエンジニアの仕事である。

されど、通信を安定して利用するためには、見えないものを調べるだけでなく、万一それが使えなくなったときの備えもまた、忘れてはならないのである。