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山頂の極上レストラン――景信山の天ぷらとなめこ汁
2026年10月13日
山頂の極上レストラン――景信山の天ぷらとなめこ汁
自分の半生を振り返ってみても、自分の発案で行動を起こした記憶というものがほとんどない。 誰かに半ば無理やりその世界へ引き込まれ、一緒に行動しているうちに、いつの間にかそれが習慣になっていくのだ。
ハイキングもまさにそうだった。元来、異常なほどの怖がりであり、常に最悪の事態を想像してしまう私にとって、山に入ることはリスク以外の何ものでもなかった。 春先に突然舞う吹雪、道迷い、出会い頭のクマとの遭遇……。常に恐怖心のかたまりである私にとって、山とはおよそ「最悪の環境」と言えた。
そんな世界へ私を引っ張り込んだのも、ある友人だった。 彼は多少の無茶を好むタチで、熊野古道の大辺路(おおへち)や、雲取山の石尾根縦走路、さらには甲斐駒ヶ岳の黒戸尾根といったスーパーハードなコースばかりを好んで選んだ。
彼の性癖に付き合わされた当初は、ただ怖くて、疲れて、辛いだけの思い出しかなかった。 しかし、熊野本宮から那智大社の滝へとたどり着き、石尾根を経て雲取山頂からの大パノラマを目にしたとき、気がつけば私はすっかり山の虜になっていたのである。
土日祝日、ゴールデンウィーク、年末年始。仕事の休みという休みを山へ注ぎ込み、年間で百日は山に入るまでになった。 そうした山歩きの中で、山小屋や麓の茶屋で味わう食事が、私の登山の大きな楽しみであり定番となっていったのだ。
これから山裾に佇む名店についても綴っていきたいと思っているが、その第一弾として、私の「定番中の定番」である景信山(かげのぶやま)をご紹介したい。
このコースの何が良いかと言えば、登山口から下山に至るまで、変化に富んだ魅惑のスポットが点在していることだ。それでいて都心からのアクセスも抜群に良い。人気が出て当然の黄金コースであり、いまさら書くまでのこともない有名ルートなのだが、やはり語らずにはいられない。
出発点はバス停「陣馬高原下」。高尾駅北口からバスで35分ほど揺られた場所にある。 ここから舗装された林道をしばらく歩き、左手から陣馬山の登山道へ入る。管理林を一直線に登り詰め、見晴らしの良い尾根に出れば、もう山頂は目の前だ。
「陣馬」の名が示す通り、山頂にはシンボルである白馬の像が天に向かって聳え立っている。 空気の澄んだ冬場であれば、ここから見事な富士山の眺望も期待できる。
そこから山道をアップダウンしながら進み、途中の明王峠でも美しい富士を仰ぐ。ここで小休止を取った後、いよいよ「定番のアレ」を求めて景信山を目指すのだ。
こうして文章で書くとスイスイ歩けそうに思えるかもしれないが、約10キロの道のりをアップダウンを繰り返しながら進むため、初心者にとってはそれなりに骨の折れるコースである。
だからこそ、景信山頂にたどり着き、山小屋名物の「山菜天ぷら」と「なめこ汁」を口にした瞬間、これまでの苦しい道のりはすべてこの味のためにあったのだと、全身で実感することになる。
サクサクと香ばしい揚げ立ての山菜天ぷらと、冷えた身体の隅々にまで染み渡る熱々のなめこ汁。そこはまさに、山頂に現れた極上のレストランなのだ。
景信山で満ち足りた後は、小仏峠へ下りて高尾駅行きのバスに乗るのも良い。そのまま高尾山頂まで縦走を続け、下山後に駅前の天然温泉(極楽湯)に浸かるのもまた格別だ。至福の一日が過ごせることは間違いない。
不思議なもので、私はこのコースを何度も歩いているにもかかわらず、しばらく時間が経つと「またあの道を行き、あの味に会いに行きたい」と強く思ってしまうのである。