実は、ココは食い倒れの国だった――ベルギーの巨大な胃袋と、ネロへのお詫び

皆さんは「ベルギー」と聞いて、どういうイメージをお持ちだろうか。

ベルギーワッフルやゴディバなどの極上スイーツを思い浮かべる人もいれば、サッカー強豪国として知る人もいるだろう。絵画好きならルーベンスやブリューゲル、マグリットといった個性豊かな巨匠たちの故郷と思い至るかもしれない。お洒落な街歩きが好きな方なら、ブルージュの御伽の国のような美しい家々、運河クルーズ、そしてカリヨンの調べに心を奪われるはずだ。昭和生まれの人なら「『フランダースの犬』の舞台だよね」と言うかもしれない。

しかし、ここでそうした定番の観光談義をするつもりはない。今回は、私が現地で体験した「食べ物」にまつわる小さなエピソードを紹介したい。

かくいう私のベルギーのイメージといえば、小便小僧の発祥地(ブリュッセル)、非常に大柄な人々(これはオランダ人も同様だが)、そして本家フランスに引けを取らない美味しいフレンチが比較的安く食べられる国、といったところだった。

日本も都市部に飲食店が集積していて賑やかだが、ベルギーと大きく違うのはその「サイズ」と「ボリューム」である。

これはベルギーに限った話ではないが、いわゆる欧米諸国(スペインやイタリアはそこまででもなかったが)のカフェなどでサンドイッチを注文すると、提供される「量」に度肝を抜かれる。メニュー表を見て「サンドイッチにしてはかなり高いな」と思うのだが、運ばれてきた実物を見て納得するのだ。日本の成人男性二人分以上は優にあり、女性なら四人でシェアしても十分なほどである。

量だけでなく、具材の豪快さにも驚かされた。高カロリーな肉や野菜がこれでもかと挟み込まれている。かつてドイツのハイデルベルク郊外で食べたサンドイッチも同様の量だったが、具の豊富さと豪華さではベルギーの圧勝だった。当時読んだ「地球の歩き方(ベルギー編)」に「ベルギー人はグルメ」と書かれていたが、まさにそれを証明するような一品だった。

もちろん、すごいのはサンドイッチだけではない。 ムール貝の白ワイン蒸しを頼めば、直径30cmほどのバケツになみなみと入ったムール貝と、山盛りのフリッツ(フライドポテト)にケチャップとマヨネーズが添えられてドカンと出てくる。同国自慢のビールも半端ではない。普通に注文しただけで、50cmほどもある細長い巨大グラスで運ばれてくるのだ。

現在は物価も変わっているかもしれないが、料理の量と質、そしてお酒のバリエーションの豊富さの割に、近隣国と比べてお値ごろ感があったのは間違いない。体が大きく、食べる量も多く、さらに「美味しいもの好き」なベルギー人の胃袋を満たすには、この価格帯とボリュームが必要不可欠なのだろう。

(※過去にベルギー人の大食いエピソードについても投稿しているので、よろしければ合わせてご覧ください)

料理の質と量にも驚いたが、実は「トイレ」でもカルチャーショックを受けた。 男性用の小便器の設置位置が、完全にベルギー人基準の高さになっていたのだ。恥ずかしながら、私は日本人男性の平均身長よりかなり低い160cmしかない。当然足も短いので、便器に届かせるためには5cmほどつま先立ちをする必要がある。その格好は、自分で鏡を見ずとも十分に滑稽であった。

さて、冒頭で触れた『フランダースの犬』のクライマックス。吹き荒れる吹雪の中、たどり着いたアントワープのノートルダム大聖堂で、空腹と寒さのなか力尽きたネロ少年とパトラッシュの姿は、多くの日本人の涙を誘った。

私もベルギー滞在中、アントワープの街を訪れた。そして、ノートルダム大聖堂を眺められる絶好のロケーションにあるオープンテラス席で、超分厚い馬肉ステーキと山盛りのフリッツをペロリと完食してしまったのだ。

食いしん坊の私ですら、翌日の昼過ぎまで一切何も食べられないほどの超満腹状態になった。 真夏の夜空を見上げながら、私は密かに、ネロとパトラッシュに向かって深くお詫びをしたのだった。